報告書

二十代終わりにして初めてバイクを買った者の忘備録

②中型自動二輪免許講習怒りのデスロード

私は車の運転が嫌いだが、普通自動車免許の講習にはあまり嫌な思い出はなかった。

高校卒業と同時に同級生と一緒に自動車学校に通ったため、そもそもそこまで苦では無かったのかもしれない。

それに、講習自体は講師の人とおしゃべりしていればいつの間にか終わるくらいの感覚であったため、どちらかと言えば、じっとしていなければいけない学科の方が苦行であった。

 

私が今回取得する中型自動二輪講習は、普通自動車免許を持っている場合、学科免除となっていた。つまり、実技講習を15回程度受ければもう免許取得というわけだ。一日に出来るコマ数は二つ。一週間程度で終わるのは少し早すぎる気がしていた。公道教習がないのだから、もっと練習して公道デビューしたかった。

 

まぁ、とどのつまり、私は中型自動二輪の講習をナメていたということだ。

 

最初の入学日は、金を払って適正検査を受けたら終わりだった。個人的に自動車学校の適正検査の様な直感的な問題を沢山解くのは好きで、試験の時隣に座った高校生が四苦八苦しているのを見て私は悦に入っていた。

 

学生時代から数段ステップアップ(数値的には体重のみだが)した私には、憧れのバイクまでのなんて事ない些細な障壁だと思った。

因みに、私は追い詰められないと情報収集とかをしないので未だにバイクっていいなー楽しそうだなーの感情のみで自動車学校にきている。

この段階になってもなお、欲しいバイクの車種すら決まって無かったし対して知らなかった。買う時になれば自然と自分が調べるだろうと思ってた。

基本的に、私は未来の自分に期待を寄せている。自己評価が低い人間の癖に何故そんなことが出来るのかはよくわからない。

 

そんなこんなで一回目の講習日、講習場にはずらりと青色の車体が並んでいた。cb400sfだ!その後ろには、その次の道のりを指し示す様にNC750が鎮座している。

割と、その光景だけでアガってきた。今からこれに跨るんだ!

 

時間になると講師が降りてきた。私は変なタイミングで入校したため受講生は少なく、私と講師のマンツーマンのようだ。

講師は眠たげな目をした初老一歩手前のおじ様だった。おじ様は、挨拶をして世間話をそこそこにすると、一番手前のcb400を倒して、たてれる?と聞いてきた。

実際、当時は少し鍛えてたのもありそのくらい余裕だった。

私が自信満々に車体を立てたのを見ると、講師が一言、じゃあ行こうか。と言ってきた。

 

??

 

私はバイクはおろか、原付すら乗った事ない。乗り方すら、分からないのだ。

困った顔でモジモジしていると、講師は言った「えっ、乗った事ないの??」ないです。「ブレーキの場所わかる?」右手のとこですよね「……これから乗るんだけどどうするの?」

しらねぇよ!!!

そもそも、俺はそう言った事を習いに来たんだよ!!は?中型自動二輪取るやつの殆どはなんらかのバイクに乗ったことある奴かよ!そんならそう書いとけよ!マジの初心者はお断りしますってさあ!!

 

そんな思いを凝縮して、私は はぁ とだけ言った。

二十余年生きてきて、大体合う人間合わない人間のことは初対面で分かる。この場合は後者だ。

バイクに乗ってすらいないのに、既に心が折れそうになった。

 

とりあえず跨って、色々と操作箇所を教えてもらった。一速とニ速の間にニュートラルがあると言う素人目線では設計ミスとしか思えない(乗ってると重要性が分かるけど)構造はなんとか理解し、フロントブレーキとクラッチを握って変速することを頭に入れていると、

「握り方が違う!こう!」

と怒られた。どうやら、フロントブレーキの握り方が悪かったらしい。

えっ、どうすればいいんですか??と問うと

「こうだよ!」と講師はにぎって見せた。

どうだよ……。

とりあえず、見様見真似でこうですか?と握ってみると

「そう!」と言われた。

違いは分からなかった。

 

一通り説明を終えると、次は講師の操るバイクに自らもバイクを操ってついていく練習になった。

出庫のため引きずったcb400sfは思った以上に重く、何故か自転車みたいに動かせると思ってた自分の妄想は簡単に砕かれた。

しかし、人生初バイクだ。心臓が鳴っているのが分かる。一体、どんな感動が待っているのだろうか??私は青色の車体に跨って、一速に入れて、アクセルを捻る。その瞬間、ドンッと加速をして──いかず、エンストした。

私がエンストすることも予想出来ず、勝手に先に飛び出していた講師はUターンをして「どうした!?」と怒鳴った。見たら分かることではあるが、エンストしましたと律儀に答えた。

何度か挑戦して、出発のコツを覚えると次はすんなり出発はできた。

次の関門は、動きながらギアチェンを行なっていく事だ。十字路に入ると、ゆっくりブレーキをかけて曲がりたい方向に車体を寄せて、ウインカーを出す。その後、クラッチを切り、左足でギアを下げて、アクセルを緩めて目線を行きたい方向に、車体を傾けてカーブする。カーブ後は、ウインカーボタンを押して、クラッチをふたたび切り、ギアを戻す。そして、……って忙し過ぎる!普段、オートマ四輪に慣れてる身としてはたかが曲がるだけで工程が多過ぎるし長過ぎる。本当に皆、こんな面倒な乗り物をありがたがって乗っているのか??そして、どこかの工程を忘れて飛ばすと講師から止められて怒られた。

そうこうしていると、一時間目が終わった。

一時間目の時点で、難しいと噂にきくスラローム一本橋もやっていないのにも関わらず、そもそもバイクを動かす事が難しい。

これは、自分は免許がとれるのか??本気でそう考えた。軽い気持ちでバイクに乗ろうと思った自分に後悔した。

しかし時間は進み二時間目、やっとの事で八の字にこれたが、そこで、ウインカーを切るタイミングについて尋ねて、講師から今まで何を見ていたんだ?と怒られ、見て分からなかったから尋ねたのにいけないことなのか?と言い返し言い合いになった。聞いていなかったのか?と言われたがヘルメットを被っているからか聞こえない(あと、考え事していて聞いてない)こともあり更に対立を深める……。

なぜ、出会って二時間も立たない人間と喧嘩をしなければいけないのだ……。

 

後に分かった事だったが、別にその講師が極端に教え方が下手だというわけではない。

他の時間に習っている生徒との関係は別に悪く無さそうだった。そして卒業後、仕事で付き合いのある方も最近バイク免許取ってたときいて、話を聞いていると、偶然同じ講師だった。私は、あの人と喧嘩して〜と言うと、えー何やらかしたんですか??と笑われた。

つまり、私だけが特にウマが合わないようだ。何故か不倶戴天の関係にならざるを得ないよう運命付けられているされている私達は、講師と生徒という形で出会ってしまったわけだ。なるほど、きっと前世では項羽と劉邦徳川家康石田三成の様な関係だったのであろう。それか、ハエとハエトリグサだ。

 

更に講師の肩を持つと、私には悪癖がある。

それは、RPGハズレの道も必ず行く病だ。ドラクエとかのRPGで明らかに正規ルートではなくて、おそらく何もないであろうハズレルートも行っておかないと気が済まない体質の人はある程度居ると思う。世界樹の迷宮では苦労するタイプの人間だ。

それを私は人生でもやる。

つまり、道に迷ったり何かの選択肢でふた通りあった場合は、やり直しが効く場面において、何故か間違った方から進めたくなるのだ。

悩んで、よくわからない場合、なんとなくハズレの方を選んでしまう。そして、それは往々にしてハズレだ。

悪癖といったが、割と自分は色々な場面で有効な方法だと思っている。なんとなくしか分からない場面で、正解の方を選んでしまうと、なんとなくのまま終わってしまうが、ハズレのルートを辿ると何故駄目だったかが見えてきてその結果、正解の形もよりくっきり見えて来る。次回以降は明確に判断ができるのだ。

しかしながら、当たり前だがそんなことは講師には関係ない。自分のやってみせた通りにやれ出来なかったら指導して補正させていくという指導方針の講師と、自分のルートを辿って行きたい私とでは相性は悪かった。

 

そんなこんなで、二時間目まで終わった。

 

二十代後半にもなってこんなに怒られることあるのかってレベルで怒られたし、それ以上に自分自身が想像以上にバイクの操作が全然出来なかった。

帰り道、リアルに明後日とった次の講習に行くか迷った。

しかし、行かないことには仕方がないので復習しようと乗っている自転車でクラッチ操作の真似事をして帰路に着いた。多分、ブゥーンとかも言っていた気がする。

 

そんな調子で始まった中型自動二輪講習だから、そこからは悪戦苦闘の連続だった。

しかし、続けていくと不思議なもので、出来るものと、出来ないものか分かってくる。

 

8の字•••楽勝!これについては、目線とアクセル操作だけ。出口でウインカーを忘れがちになる。

スラローム•••最初はまったく出来なかったが、何故かある時からバッチリと得意になった。講師も不思議がっていた。正直やってて楽しい。

一本橋•••ずっと苦手。何回しても上手く行かない。たまに上手くいっても次は上手く行かなくなる。

急制動•••最初めちゃくちゃ怒られたし、一番怒られたところ。でも、個人的には得意だし簡単だと感じた。うごご

クランク•••問題ない。ここに関しては、スムーズに行けた。8の字と同じ感覚。ハンドルを切ればいいって思った。

法規走行•••クッソ苦手。手順があるものって忘れがちになってしまう。よく、方向指示器の出し遅れ、消し忘れを指摘された。

 

こんな感じ。

なんだかんだ一番楽しいと感じる瞬間は最初に外縁を3、4周走るウォーミングアップの時だ。やっぱり、ただただバイクを走らせるのって楽しい。何回か講師が目を離している時はもう一周追加したりした。この時は、早く自由にバイク乗りてぇーと強く感じた。

それとあんまり卒研と関係ないATのスクーター講習の後に第一段階の見極めさせられて、そこそこ困惑した。あんまり重要じゃないタイミングでそういうのはやって欲しいっす……。

あと、バイクってATだからって乗りやすいわけじゃないらしい。めちゃくちゃ乗りにくいと感じた。なんだかんだ、慣れてくるとマニュアル操作が細かい操作はやり易いみたいだ。これで一本橋をやっているAT限定の人の気が知れない。尊敬する。

 

そんなこんなで、卒研まで見極め入れてあと二時間までこれた。

やっぱり、どんなに講師と合わない、操作難しいと言いつつもコマ数自体も少ない。すぐに卒研手前まで来てしまった。

そんな時、事件が起きた。

今まで楽勝だったスラロームで引っかかる様になってしまったのだ。講師もあと2回だぞ、ちゃんとしろ!と言うが、既に自分の中でもあえて間違うとかそんなレベルはとっくに終わってた。

うーん、目線や傾けるタイミングはちゃんと意識しているのに何故かもたついてしまう。安全に行けば完走はできるが早く行き過ぎる。おそらく、卒研間近でメンタル的な部分でブレーキがかかってるのだと思う。

そうこう、している内に二段階目の見極めとなった。

こんな状態で、卒研はイケるのだろうか。ましてや、一本橋も未だに不安が残っている。

大丈夫なのか……。

 

二段階の見極めは普段の講師とは違う教官が行う。今回の教官はどこか体育教師然としていた。まあ、正直ここで落とされることは滅多に無いかとは思うが緊張した。

見極めは思ったより、スムーズにできた。しかし、教官は浮かない表情でもう一回一本橋してみようかと言ってきた。

やはり、苦手な一本橋。そこだけ、タイムが少し速かったようだった。

もう一度一本橋をやってみると、教官が近寄り

「いまのでタイムは大丈夫なんだけど、落ちそうで怖かったでしょ。一本橋はゆっくりまっすぐ行くイメージじゃなくて、ハンドルをきりながらジグザグにやってみよう。怖くなったらクラッチを繋いで整える感じて」

もう一度やってみる…………できた!

今までで一番安定してできた。

私が感動していると教官が一言

「入る時に真っ直ぐ入ろうとしすぎて強くアクセル回してるから、入る時から目線は真っ直ぐでジグザグを意識してみて」

………できる!

私は愕然とした。まさかまさかの卒検一歩手前で運命の出会いを果たすとは思いもしなかった。これで、ずっと苦手意識があった一本橋はぐっと心の負担が減った。

それも、最後の一回で。

しかし、当時の私は何故か、最後の最後に自分と合う教官に当たるくらいだったら、いっそのこと知りたく無かったよ!今までの苦労が報われねぇだろ!!と運命に憤っていた。

 

そうして、二段階目の見極めも終わり、あっという間に卒検当日となった。

めちゃくちゃ緊張した。それなりに、人生色々な試験試練に晒されてたと思ったが、緊張するものは緊張する。

待合室の端っこで謎の嗚咽を繰り返していたら、担当の講師が近づいてきた。

「別に君は下手なわけじゃないから、いつも通りやればできる。かんばれ」

流石に三週間も顔を合わせていると、人となりがわかり尊敬もしてくる。今にして思えば、講師には迷惑も沢山かけたし、合わない合わないと言って合わせなかかったのは自分なんじゃないかと反省もしていた。

頑張りますと私は力強く頷き、卒検に挑んだ。自分には、担当講師の今までの教えと、見極めの時の教官から教えてもらったコツ。最後くらい、講師の期待に応えてみせよう!

私は普段とは違う色のゼッケンを来て、卒検の検査員に頭を下げ、バイクに跨った。

 

結果から言おう。

めっっっっちゃ置きにいって合格した。

 

一本橋は普通にスッーと入って、ジグザグもせずスッーと降りた。当たり前だ。直前の一回で習ったものを実戦で試すほど器用でもない。

スラロームも練習でしてるよりゆっくりとぶつからないよう。この際、タイムは無視だ。

他も、インターネットで速度指定がある場所以外は下の下限速度は無いと書いてあったため、ゆっくり頭を整理しながらゆっくりゆっくり運転した。

 

卒検終了後、私の中のDIOが勝てばよかろうなのだと叫んでいた。

 

合格証明書をもらうと、とりあえず担当講師まで挨拶に行ったが、あの後出張に行ったとの事だったため、チャリでコンビニまで行って、とりあえず目についたモトチャンプとアイス買って、家に帰ってモトチャンプ読まずにアイス食って寝た。

 

おわり