③中型バイク免許取得後、バイクに乗るアピールしていた俺は半年乗ることはなかった。
自動車学校中型自動二輪学科を最終学歴に更新した私は、その翌週には免許更新を行った。
右下の枠欄が一つ埋まったのを見た瞬間、全欄コンプリートしたい欲に駆られたが、三日もすればどうでもよくなった。
私の今までの趣味が、読書、映画鑑賞と平凡趣味選手権の優勝候補を二つ押さえておきながら、今まで身の回りに同じ趣味の人があまりいなかった。その上、バイクに乗っている人間も身の回りには一人もいなかったため、今回も誰もいないだろうと職場で自慢したら、中型自動二輪免許を持っている人は沢山いた。
特に四十代以上の男性は、義務教育かというくらい中型免許を所持していた。
おじ様たちはNSRやらXJRやらと幼な子である僕に教え込んできたが、飲み会での自慢話と同じ匂いがしたので話半分でしか聞かなかった。
同世代でいうと、私は同世代で仲のいい同僚が2人いる。
彼らとは、最初はそこまで仲良くは無かったが、飲み会の帰りにどうしても学生時代やっていたボードゲームをやりたくて頼み込んで共にプレイして以来、休日も遊ぶ様な仲になれた。その後もボドゲだけじゃなく、サウナ行ったり釣りに行ったりしていた。
便宜上、私が私を御酢素と名付けたため、彼らを御塩と御醤油とする。
その日も仕事終わりに私のアパートの部屋に集まり、ボードゲームとしての麻雀を3人で打っていた。
麻雀をそれまでしてこなかった彼らには、カタンやドミニオンの流れで麻雀をプレイしていただいたため、私たちの中では麻雀はボードゲームの一つとなっている。
私はリーチをかけながら、おもむろに更新した自動車免許証を場に置いた。
あちゃー、リー棒と間違えて中型バイク免許を取得した免許証を出してしまったー!!と大袈裟に言った。私にバイクのイメージを持っていなかった彼らを驚かせる為に、私はそれまでバイクの免許取得の為に車校に通っていると言ってなかったし、免許証は麻雀が始まる前からポケットに入れていた。
私は驚かれるか、ウザすぎて殺されるかを期待していたのだが、思った以上に彼らの反応は薄いものだった。
あぁ、おめでとうと言って捨て牌を切る彼らに、もっと驚けよと憤った。
そうした私を見て御塩は一言、
だって俺らも中型免許もってるし
と言ってのけた。
私は驚いた。
結局のところ、私の周りで中型自動二輪免許を持っていない人間の方がマイノリティだったようだ。私は免許を取ることで特別な人間になったと思ったら、平凡側へ首から突っ込んでしまった。
すっかり私の優越感は消え失せ、荒涼とした羞恥心だけが残った。虎になりそうだ。
わたしは、
えっ、いつ…??と自分の出番にも関わらず牌を切らない罪深さを忘れて尋ねた。
御塩は
俺は、大学で就活終わった時かなー。高校大学でずっと原付使ってたし、欲しくなったんだよね。まあ、結局バイクには乗ってないけど。
とのたまった。成程、それなりにバイクとの歴史があるわけだ。俺のポッと急に欲しくなったのとは違う。
私は少しの敗北感を感じながら、頼むモテる為であってくれと願いを込めて御醤油を見た。いつの間にか私の中で、バイク免許をとった理由ダービーが始まっていた。
御醤油は少し言いづらそうに、
俺、昔警察学校通って辞めたっていったじゃん。実は白バイに乗りたくて警察入ったから、そん時免許取ったんだよね。まあ、その後病気見つかって白バイ乗れないって分かったから、警察辞めたんだけどさ……。と言った。
おっと??
急な差し込みに私は馬体を崩した。考えうる限り、バイクとの歴史としてはめちゃ強いのがきた。
私は黙り込み、牌を切り続けた。
想像以上にバイクと関わりがある人間は多い様だった。それも、私より深い関係が皆んなある。
もう既に、私がバイク免許を持っている事への特別感は消え失せてしまった。しかし、話を聞いてみると2人とも現在はバイクに乗っていないようである。
ということは、バイク免許とる理由ダービーに敗れた私だが、バイクを手に入れさえしてしまえば、愛車と私ステークスにはまだ勝てるということだ。
そう考え、じゃあそのうちバイク買うから乗せてあげれるやん……と謎の主張をして私はその後も振り込み続けた。
しかしながら、結局その後も、私はなかなかバイクを買わなかった。
親戚の結婚、忘れた頃にやってくる車の任意保険の更新、有馬記念アーモンドアイまさかの敗北と悲劇は続き、私は財布が軽くなる事に耐え難くなり大きな買い物に二の足を踏んでいた。
結局のところ、バイクを買うだけの勇気が無かった。
そして、免許取得から半年が経ち、欲しいバイクがよくわからなくなり、やはり大型欲しくなるだろうし大型免許もとって大型から乗るか??と迷走していた頃ある知らせが入った。
御塩がバイクを購入したとのことだった。
GSX250R
私はステークスも取り損ねた。