報告書

二十代終わりにして初めてバイクを買った者の忘備録

④令和始めに、人生初の中型バイクを選んだ時の話

私の住む田舎町でも新型コロナウイルスの足音が聞こえ始める2020年初頭、中型バイク市場の売上は一台のバイクが独走状態だった。

そのバイクの名はレブル250。ホンダが打ち出したクルーザーバイクの新提案だった。

反った腰に、水冷単気筒、丸型液晶メーター。初見は、ん?となった人も多かったそうだが、見慣れてみるとこれがカッコいい。cb250rとの共通エンジンは、よく走ると評判だった。

 

中型バイクの免許を取り、バイクを買おうと本格的に決めた自分は、一発でレブル250が刺さった。雑誌で一覧を見たときにこれやなぁ……と感じた。

比較的身体の大きな自分は、勝手ながらアメリカン(クルーザー)が似合うと思っていた。

中古車に目を向けると、シャドウやドラッグスタークラシックとこれぞって感じにカッコイイアメリカンバイクが軒を連ねていたが、整備に自信がない上に全くマメじゃない性格の自分には現行車種以外は難しいように感じた。


レブルかぁと考えていると、2020年にモデルチェンジして発売されるという記事を目にした。大きな変更としては、ヘッドライトがledになり近未来感のあるデザインに変更されていた。また、メーターにはギアポジションインジケーターが追加され使い勝手が良くなっている。

しかしそれ以上に私に刺さったのはsエディションの存在だ。ヤバいくらいにカッコ良かった。マットブラックの車体にブラウンのシート。これが刺さらない男の子はいないと言うほどのデザインだ。

当時私はデスストラクションというゲームにハマっていて、近未来の世界でバイクで駆け回っている最中であったから、近未来感のあるデザインにクラシックな配色のsエディションは私の為に作られたとさえ感じた。

困った事に、中型バイクを買うのに、これを買わない理由は存在しなかった。

 

しかししかし、さらに困ったことに、おそらく私はこのバイクを買わないだろうなぁということもうすうす自分自身に感じ取っていた。

さすがに20数年の腐れ縁だ。御酢素ちゃんのことは俺が一番わかっている。

だってさ、こいつは人と被るのが基本的に嫌いなのだ。

 

そう、特に人と違う特技や経験がない私にとって、せめて持っているものくらい人と被りたくないというしょーもない臆病な自尊心を満たすためにはさすがに売れ行きNo,1のバイクは気が引けてしまった。

それに、やはり街中をいていればたくさんレブルが走っており、カスタムを特にするつもりも無い自分にとって差別化をしていくには難しい。

 

それともう一つ買わない理由の大きな要因として、上位機種が存在することがあった。

レブルには250の他に500という兄貴分が存在しており、未来の話になるがレブル1100もいずれ登場する運命にあった。

私はこれも未来の話であるが1年後には大型自動二輪免許を取得する分際であるにも関わらず、中型バイクを選んでいる段階では大型へステップアップする気は一切なかった。

それは、私の中型自動二輪講習がそこそこしんどかったから、しばらくは教習をしたくないというのもあったが、やはり、そんなにころころバイクを買い替えていては貯金が尽きてしまうのではないか、そんな今の私に言って聞かせたい正気を保ったことを考えていた。

それに自分自身、フラッグシップという言葉に弱いため、上位モデルが存在するとすぐにそちらへ目移りをするという確信があった。そのため、できるだけ上位機種が存在しない、又は存在していたとしても雰囲気はまるで違うものが望ましいと感じていた。

 

そうなってくると、まずレブル以外で購入候補から消えてしまったのはフルカウルモデルだ。人気もあり、豊富な上位機種が存在する。

今にして思えば250ccフルカウルは、それぞれがメーカーの個性が色濃く出ていてとても面白い。カワサキのロマンつまった4気筒のZX-25Rや、乗りやすさ重視のGSX250Rなどなどメーカーの色が250から強く出ていて面白いのだが、私は大排気量モデルに引け目を感じてすぐ乗り換えてしまうのではないかと思い候補から外れてしまった。

これはストリートファイター系も同様にである。

 

それに、今回初めてバイクを購入するにあたり、おそらく私はバイクの身軽さや機動性の高さ、それとどこか旅に出かけたくなるようなロマン性に憧れを抱いていたため、スピードや運転性能の面が特化したスポーツバイクは私にはオーバースペックのような気がしていた。

 

その考えの下に車種を選別していくと、ベストチョイスはアドベンチャーバイクになる。

中型で気になるのは2台。スズキのVストローム250とカワサキのヴェルシスX250だ。流石に初めてで外車は怖いからパス。

どちらも私が欲しい能力は十二分にあり、積載性も抜群でキャンプにもつれていけそうな、まさに旅をするためのバイクだ。

しかし、Vストロームに関しては買えない理由があった。

同時期にバイクを買った友人がGSX250Rを先に購入していたのだ。

GSX250RとVストローム250はエンジンを共通している。

流石に人とあまり被りたくないなぁとほざいておきながら、友人と共通エンジンのバイクに乗るのは嫌だった。

それ以外であれば、価格も安く私の求める性能十分で見た目も可愛くかなり候補であった。

 

となるとヴェルシスX250だが、これは良い!

十分な積載性に大きな車格、あとカワサキってのがなんかよかった。

しいて気になる点を挙げるならば3つ。私には良いと言っておきながら、あーでもないと難癖をつることに関しては才能がある。いらない。

1つ目は値段だ。新車価格は75万円近くなり少し想定より高額であった。2つ目は、大型機種が強すぎること。大排気量型にはヴェルシス1000がいるのだが性能もりもりの価格200万円超えだ。ひえー買えない。もし大型に目移りした場合高値の花を眺めることとなる。これは少し怖い。

あと3つ目だが、これはただのわがままというか性癖みたいなものなんだけど、アイコン性がもっと欲しかった。

私は昔からアイコン的なものが好きでナイキのスニーカーならエアジョーダン1、アディダスならスタンスミスといった具合にアイコンとなるシリーズを好んで買っていた。

そのため、カワサキならニンジャやZシリーズにあるようなアイコン性がヴェルシスにもう少しほしいなーと考えていた。

カワサキの大型にはアイコン性抜群のZ900RSがいる。それにZXの名前だったりメグロを復刻させたりと、ブランド名だったりアイコン意識が抜群に上手いカワサキだからこそ、ヴェルシスの新興具合は際立って気になってしまった。

人と被りたくない癖にアイコン的な物が好きとか救いがない自己矛盾は、大型を選ぶときにZ900RSが大きく呪いとなってのしかかってくるのは別の話。

しかしながらヴェルシスは、購入候補の中でもかなり欲しい一台だ。

ちなみにCRF250ラリーは、この時、オフロードバイクと思っており、大した調べなかった。個人的にオフロードバイクは一番興味がなかった。理由は簡単で、見た目がショウリョウバッタみたいでそんな好きじゃないってだけである。

 

しかし、アイコン性となると中型で思いつくのは2台ある。

ホンダのCB400sfとヤマハのSR400だ。エンジン性能を調べてみるとまったく異なる2台だが、それぞれがアイコン性抜群の名車だ。

とりわけ、私が気になったのはSR400だった。

クラシカルな佇まいと斜めに倒れた空冷単気筒エンジンの美しさ。サイドバッグを取り付けた時の旅に出かけたくなる感じ。まさに外観だけでいうと群を抜いて好みだ。これは過去の生産終了したエストレイアや、今後未来にでてくるGB350を含めてもなお、見た目だけでは一番好みであった。

 

正直、レブルから目を逸らし他のバイクを探し始めて、SR400を見たときに心の底から動揺した。

私のバイクの起源を思いだしたからだ。

前の記事で自分がバイクと初めて触れ合ったのは、高校で寮の同室の人間がバイクの雑誌を読んでいたからと言ったがアレは嘘になる。

初めては、小学生の時に読んだキノの旅というライトノベルだ。

 

私の友人のお姉さんが今思えばオタク気質な人で、遊びに行った時に本棚に大量に本があり感動した。その中でも読みやすいやつを貸して欲しいと頼むと友人のお姉さんは私にキノの旅を貸してくれた。

貴重なおねショタ体験を私はキノの旅の貸し借りに費やし、そして小学生にキノの旅を貸すチョイスもどうかと思う事もあるが、私にとってはじめてのライトノベルとなった。

今までかいけつゾロリとかを読んできた御酢素少年にとって、キノの旅にある退廃的な空気感と時折出てくる容赦ないグロ描写は衝撃的で、小学生の性癖を捻じ曲げ歪み、後戻り出来ないアングラオタク道へ突き落とすには十分な経験だった。

もはや水をぶちまけた後の盆である私にとって、その後退廃的な物に興味を示し、今の廃墟や寂れた神社を眺めにいくツーリングスタイルになるため私にとってかなり重要な一冊である。

その中で主人公はまさにSRのようなバイク(実際のモデルはブラフシューペリアってくそ高価バイク)に似ており、これに跨り旅をすることが私の人生において一本の線が入る気がしてしまった。

 

となると、SR400かなり気になる一台だ。当時、ファイナルなのではないかと噂もでており、上位排気量も現行にはおらず、乗ってる人も多いが乗る時の服装やサイドバッグで雰囲気を変えやすい。

かなり本気の購入候補だった。

強いて言うなら、セルスタートがなくキックスタートなのはかなり気になった。

右折時にエンストして泣く思いをすることは目に見えており、結構怖い。それに、面倒くさがりな自分にとって、そのキックスタートが面倒の要因になってしまった場合乗らなくなるのではないかという恐れがあった。

しかしながら、買う動機も理由も意味も出来てしまったバイクとなった。

 

ここで購入候補のバイクは全て出揃った。

第一に、ホンダのレブル250だ。個人的にはsエディションが好みでそれを購入候補にした。

第二に、カワサキのヴェルシスX250。今はめちゃくちゃ憧れてるけどこの時はカワサキのグリーンカラーが何故か苦手だったため、グレーの車体を探していた。

第三に、ヤマハのSR400。これは見た時から決めていた。ブラックが欲しい。特に余計なグラフィックがついてない最近のブラックの車体が良いと考えていた。

 

この三つをメインに購入候補車として、だらだらだらだらスマホで画像を眺めたりYouTubeでインプレ動画を見てあーでもないこーでもないと思想に耽っていた。

 

実際、買おうかなと思い立つと友人が結婚して御祝儀を搾取されたり、車の任意保険の支払いがあったりと金を使う事に躊躇うイベントがいくつかありなかなか思い切りが出なかった。

 

そこから友人がバイクを先に買い煽られたりと、そうしてようやく重い腰を上げた時には、調べ始めて半年が経っていた。

 

まず、問題になったのは私の住んでいる県にはどこにもヴェルシスX250が置いていなかった。現物確認をしたくても出来ないばかりか、購入店が遠方になってしまう。

そのため、ヴェルシスは次第に購入候補から薄れていった。

 

つまりは、新進気鋭のレブル250と伝統あるSR400の一騎打ちと相成った!!

 

両方の車両ともに現在の貯金でなんとか払うことができる。

そうと決まればだらだらしていても仕方がない。私は住民票と通帳を手に、goobikeで見つけた両方の車両が置いてある町のそこそこデカめのバイク屋さんへと走った。

 

店内には大型車両はそこまでないが、原付やカブをはじめたくさんのバイクが置いてあった。

そしてレブルは入口の入って右側すぐのところに二台鎮座していた。フロントライトのデザイン的に最新の機種だ。どうやらsエディションは無いようだ。

 

私はすぐさま近寄て来た店員に初めてのバイクである旨と購入候補はレブルとSRである旨を伝えた。

まずはレブルだ。

店員の許可をもらい、またがってみる。

・・・・・・。

うーん?? 正直な感想が、ちょっとキツイかな?と思った。

足つきが良すぎるのと膝が窮屈に感じたのだ。多分、自分とは合わないかな?と心のどこかで納得した。もしかしたら、強制的に自分自身をそう納得させてまだ他のバイクを見て回りたかったのかもしれない。

 

店員が近寄ってきて「SRも見ますか?」と声をかけてくれた。

私は、あーこれはSRになるなぁーと感じた。購入するバイクが決まってしまうー。決まってしまえばもう迷うことができない!

やはり、何かを購入する時に比較検討する作業はとても楽しい。それだけに楽しい時間の終わりの到来が一抹の寂しさを伴って感じてきた。

「あー、ちなみに店員さん的にオススメってあります??」私はせめてもの抵抗にそう聞いてみた。ちなみに何に抵抗しているのかはわからない。

店員さんは「それら以外でしたら、vストロームかセローですかねー」と私を案内した。うーん、vストロームは買えない理由があるし、セローはオフ車だ。オフ車はそんなに見た目が好みではないしなー。これはやはり決まりかな?くらいの気持ちで店員さんについていった。ただ、今後の知見の為にも跨ってみるのも悪くない。

 

vストローム250は想像以上に車体が大きかったし、跨った感触も全く悪くない。ただ、友人と寄せてしまうのは流石に出来ない。店員さんにも友人がGSXなんすよねって言うと、あははと愛想笑いをいただいた。

次はセロー250。ヤマハの伝統あるオフロードバイクだ。

実物を見た感触は正直ほかのオフロードバイクよりのっぺり感が少なくそこまでオフロード感が強くない。丸い単眼とそれを覆うカウルが耳みたいで可愛かった。

ただやっぱり、何か全体的にすっきりしていてもう少し自分の好みのデザインとは言えないかなって思ってしまった。

私は店員さんに「やっぱセローとかもオフロードとか行かないと楽しくないんですかねー?」と聞いてみた。個人的にはオフロードのような荒れた道を攻めようとかはあまり思っていない。

店員さんは「いや、セローは街乗りでも扱いやすくてお勧めですよ。ツーリングメインで使いたいならツーリングセローっていうモデルもありますしね」と言い奥のセローを指さした。

 

んん?

そこには一台、少しごつくなったセローがいた。大きめのスクリーンとハンドルガード、背部にはゴツイキャリアが存在感を出している。

あれ?このセローはなんか見た目好みだぞ??

スクリーンとハンドルガードがついただけなのに、一般的なセローより少し無骨なイメージも入り、私が気になっていたスッキリ感が減っている。これは正直、アリな見た目だった。

 

あれー、goobikeで見たときはそこまで何も思わなかったのになーと思って眺めていると気になるエンブレムがあった「serow final」この時セローはファイナルエディションを迎え最終出荷を終えたばかりだった。ちなみにSR400のファイナルはこの時はまだアナウンスは無い。

ファイナル・・・。

ファイナルという特別感に心がひかれた。ファイナルということは今後後継機が出てくることはなく、新型が出たときに今の自分の愛車と比べる必要がなくなってくる。これは良いことだ。

それに、20代後半にもなって初めてバイクに乗ることを決意している自分が、20年以上の歴史に幕を下ろすバイクに乗ることはなかなか運命めいていて、なかなかに心をひかれるものがあった。

 

「とりあえずまたがってみます?」ツーリングセローをみて膠着していた私に店員さんは促してきた。店員がバイクの群れの中から一歩前に引き出したツーリングセロー君はほかの250ccのバイクに比べ上背があるせいかなかなかに大きく見えた。これも好印象だ。だが、上背があるお言うことは身長のパラメーターを座高に極振りしたような私にとっては足つきが怖くなる。

 

恐る恐る、足を上げて跨ろうとするとゴンと膝がリアキャリアの淵に当たった。痛い。

店員さんもそこは注意したほうがいいですねと笑った。言うのが遅い。

 

改めて跨ると、腰をシートにつけた瞬間グンッと視点が下がった。サスペンションが沈み込みつま先立ちだった足元は踵までついた。うん、これはいい。まるで、バイク側が運転手を認識して、いきますか?と尋ねているみたいだ。

手を伸ばし、グリップを握ると私は、あっーと呻いた。あっー、この感じなんかいいなぁ。

いいな。いいやん。いいなぁ。

私は体を揺らしたり、フロントサスを押し込んでみたりしながら感触を確かめる。

しまったぞ、コレだ。セローに跨って、いろいろ所に旅に出て、時にはインディジョーンズばり冒険にでる妄想が頭のなかでぐるぐる回る。

降りて、車体の周りをぐるぐる回りながら外観を確認する。

私がのったのはグリーンの車体だったが、このグリーンが落ち着いた雰囲気があり好みだった。

 

フッーフッーと鼻息荒く口元に手をあて逡巡している私に、店員が近寄り「ツーリングモデルは当社ではラストです。正直熊本にはどこにもないレベルですよ」と囁いてきた。おっ、人の買う理由付け足してくるの上手いじゃーん。いいね。

それに、実はここに来る前にYSPにもよってバイクを眺めてきていたが、確かにセローはあったがツーリングセローは無かった。

 

「ちょっと一回帰っていいですか?」私は振り絞って店員さんにそう告げると、逃げるようにして家に帰った。

その夜、延々とセローについての記事を読み、動画をあさり、webikeのレビュー

に縋った。

翌る日には再び同じ店に行き、同じ店員に、昨日と同じバイクに指を差し「これで」と告げた。私は、努めて事務的に住民票を渡し、いくつかの書類を書き、明日には金額を口座に振り込むことを告げ、少し横目で購入したバイクを眺めて店舗を立ち去った。

どうやら色々な手続きを踏むため、実際に引き渡しがあるのは来週らしい。

 

私は車に戻ると、パタンとドアを閉めイグニッションを回し店舗を後にした。

いくつか目の信号で止まった時、私は足を踏みならし車を揺らした。

 

買った!買ったぞ!買ってやったぞ!!

 

こうして私はバイク乗りになった。